がん手術を受ける患者で
血液サラサラの薬を飲んでいる割合
47%
(2018年実績)
小倉プロトコールとは
抗血小板薬、抗凝固薬の種類
このうち臨床上問題になるのは赤字で示した薬剤(その他を除く抗血小板薬、ワーファリン、DOAC)で、以下の本文ではこれらを対象に説明しています。
抗血小板薬 | ||
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種類 | 製剤 | 作用時間 |
チエノピリジン系薬剤 | クロピドグレル(プラビックス®) | 5-7 日# |
チクロピジン(パナルジン®) | ||
プラスグレル(エフィエント®) | ||
チカグレロル(ブリリンタ®) | ||
3型 PDE 阻害剤 | シロスタゾール(プレタール®) | 2 日 |
アセチルサリチル酸 | アスピリン(バイアスピリン®、バファリン®) | 7-10 日 |
アスピリン合剤 | ||
(タケルダ®;タケプロンとの合剤) | ||
(コンプラビン®;クロピドグレルとの合剤) | ||
その他の NSAIDs | イブプロフェン(ブルフェン®) | 不定 |
ロキソプロフェン(ロキソニン®) | ||
ジクロフェナク(ボルタレン®)他 | ||
その他 | イコサペント酸(エパデール®) | 1-2 日* |
ジピリダモール(ペルサンチン®) | ||
サルポグレラート(アンプラーグ®) | ||
ベラプロスト(ドルナー®) | ||
リマプロスト(プロレナール®) |
抗凝固薬 | ||
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種類 | 製剤 | 作用時間 |
ビタミン K 拮抗剤 | ワルファリン(ワーファリン®) | 3-4 日 |
DOAC (NOAC) 直接トロンビン阻害剤 |
ダビガトラン(プラザキサ®) | 1-2 日 |
DOAC (NOAC) 第 Xa 因子阻害剤 |
リバーロキサバン(イグザレルト®) | 1-2 日 |
アピキサバン(エリキュース®) | ||
エドキサバン(リクシアナ®) |
#チクロピジンでは 10-14 日、チカグレロルでは 3-5 日。*イコサペント酸では 7-10 日。略語: PDE; phosphodiesterase, NSAID; non-steroidal anti-inflammatory drug, DOAC; direct oral anticoagulant, NOAC; non-vitamin Kantagonist oral anticoagulant.
小倉プロトコールの詳細
- 1. 抗血栓薬(抗血小板薬・抗凝固薬)服用者において消化器外科手術(肝胆膵外科手術を含む)・一般外科手術を行う際に、抗血栓薬を休薬する可能性がある場合は、事前 に処方医または関連科と相談し薬剤の継続もしくは休薬につき検討する。抗血栓薬の術前継続・休薬に当たり、事前に患者本人に手術を行うことの必要性・利益と出血・ 血栓塞栓性合併症などの不利益を説明し、患者の明確な同意のもとに手術を行う。
- 2. 抗血小板薬服用例では、原則としてアスピリンを術前日まで継続して手術を施行、術後早期(術後1-2日目)に再開する。多剤併用の抗血小板薬服用例ではアスピリン以外の薬剤を休薬しアスピリン単剤継続下での手術を検討する。アスピリン以外の薬剤服用例で血栓塞栓リスクが高い場合は1週間前にアスピリン内服に切り替え術前日まで継続(アスピリン置換)、術後は元の薬剤を早期に再開する。血栓塞栓リスクが低い場合は状況により1週間前からの休薬を検討するが、可能な限りアスピリン単剤の継続が望ましい。
- 3. 抗血小板薬服用例における緊急手術時には原則として抗血小板作用の緊急拮抗は行わず手術を行う。周術期を通し難治性の出血時には血小板輸血による緊急拮抗を行うが、出血がコントロールできる場合は血栓塞栓 リスクが高くなることを避けるため可能な限り緊急拮抗は行わず手術を施行することが望ましい。
- 4. 抗凝固薬(ワルファリン)服用例では、非弁膜症性心房細動(Af)の場合にはDOACへの術前の一時的な変更(DOAC置換)のもと手術を施行することを推奨する。弁膜症性疾患や機械弁による弁置換術後などのそれ以外の疾患では原則として術前3-5日前からのヘパリン置換を行い、術後早期に薬剤を再開しPT-INRの治療域到達を確認後にヘパリン終了とする。ただし、静脈血栓症(肺塞栓症や深部静脈血栓症)既往例や弁膜症に対する機械弁による弁置換術後などの血栓塞栓リスクが極めて高い場合は術前7日前からのヘパリン置換およびAPTTの厳密な治療域到達確認を行う。血栓塞栓リスクが低い場合は3-5日前からの休薬のみでの対応も検討してよいが、休薬時の血栓塞栓リスクを十分に説明して手術を施行する。
- 5. 抗凝固薬(DOAC)服用例では、手術前日朝まで内服継続しそれ以降休薬(1日2回投与薬剤では手術前日朝まで投与し前日夕より休薬)とする。手術を施行後は、術後早期(術後1-2日目)に薬剤を再開する。原則としてヘパリン置換は不要であるが、血栓塞栓リスクが非常に高い場合など状況によりヘパリン置換を考慮してよい。腎機能低下例ではそれぞれの薬剤において休薬期間の延長が必要となるため腎機能評価後に休薬期間の補正を行う。
- 6. 抗凝固薬服用例における緊急手術時には、ワルファリンの場合にはPT-INRのモニターを行い、必要に応じて緊急拮抗(ビタミンK製剤、新鮮凍結血漿、またはプロトロンビン複合体製剤(ケイセントラ®)の投与)を行ったうえで手術を施行する。DOACの場合には臨床的に出血傾向が顕著な場合以外は緊急拮抗は行わず手術を施行してよいが、出血のコントロールが困難な場合には新鮮凍結血漿による緊急拮抗や、ダビガトランの場合はイダルシズマブ(プリズバインド®)による中和を行ったうえで手術を施行する。
- 7. 抗血栓薬服用者に対する手術において、鏡視下手術の適応は施設における適応基準に準じるが、出血・血栓性合併症の双方のリスクを念頭において十分な患者への説明のもとに慎重に適応を決定することが望ましい。
- 8. 抗血栓薬服用者が手術を受けた場合、術後は出血性合併症がないことを確認したうえで、内服が可能になった時点で術後早期(術後1-2日目)に再開を行う。二剤以上の薬剤服用例では、術後出血の有無を確認しつつ段階的に早期の再開を行う。
外科の紹介
当院は全国有数の狭心症や脳卒中等の動脈硬化性重症疾患を有する患者さんが集まる病院です。このためがん治療においても動脈硬化性疾患を抱える重症度の高い患者さんが必然的に多くなり、他施設では手に負えない基礎疾患を有する患者さんのがん治療についても多くの紹介を受けています。心臓・脳血管に問題を抱えたがん患者さんの外科手術を施行する上で問題となるのは、抗血栓薬(“血液をサラサラにする薬”、抗血小板薬や抗凝固薬)の服用、脳梗塞ハイリスク例、低心機能例であり、これらが重複するほど難しくなります。抗血栓薬を服用している患者さんに対して手術を行う場合には、一時的な中止でも血栓リスクが高くなり脳梗塞・心筋梗塞が発生する可能性がある一方で、抗血栓療法継続下の手術では重篤な出血が生じる可能性もあります。これら心臓・脳血管障害を抱える重症度の高い患者さんには、手術時間も循環の面から考えると不利となるため、慎重かつ手際の良い手術が必要となります。
当科では、複数疾患を抱え重症度の高い患者さんへの豊富な治療実績をもとに、致命的な梗塞性合併症の発症を最小限に抑える安全な周術期管理と手術手技を確立・実践しており、これらハイリスクな患者さんに対しても専門性の高い低侵襲外科治療を提供しています。