治療実績
304件
(2024.7.31現在)
心房細動による脳梗塞
心臓の病気である不整脈の1つに心房細動という病気があります。心臓の上の部屋(心房)が細かく震えることで起こる不整脈の1つです。心房が細かく震えると血液がうまく送り出されずに心臓の中で血液がよどみます。血液がよどむと血が固まり(血栓)、その固まった血栓が心臓から送り出され脳の血管に到達してしまうと脳梗塞を発症します。これまでの予防法として「血液サラサラのお薬(抗凝固薬)」を生涯服用することが推奨されていましたが、消化管出血や脳出血などの出血リスクのために服用できない患者さんや実際に出血を繰り返してしまう患者さんに、より有効で安全な治療法が待ち望まれていました。
WATCHMAN(ウォッチマン)
心房細動により血栓のできる場所の約9割が左心房にある「左心耳」でできると言われています。WATCHMAN(ウォッチマン)は、開心術をする必要がなく、鼠径部の静脈から細い管(カテーテル)を通して心臓に挿入し、左心耳を閉鎖してしまうデバイスです。
500円硬貨ほどのサイズで、左心耳を塞ぐように設計されており、手術後にはWATCHMAN(ウォッチマン)を覆うように内皮化が進み、左心耳が永久的に閉鎖されることによって脳梗塞のリスクを抗凝固療法並みに低減させながら、抗凝固薬の服用を中止することができるようになります。
WATCHMAN(ウォッチマン)の適応基準
日本循環器学会から示されているガイドラインは、以下のうち1つ以上を含む出血の危険性が高い患者さんがWATCHMAN(ウォッチマン)の適応基準となっています。詳しくはかかりつけ医の先生へご相談ください。
- ・HAS-BLEDスコアが3以上の患者さん
- ・転倒にともなう外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある患者さん
- ・びまん性脳アミロイド血管症の既往のある患者さん
- ・抗血小板薬の2剤以上の併用が長期(1年以上)にわたって必要な患者さん
- ・出血学術研究協議会(BARC)のタイプ3に該当する大出血の既往を有する患者さん
医師の紹介
循環器内科 部長 白井伸一
Profile
- 日本内科学会 指導医 専門医 認定医
- 日本循環器学会 専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 専門医 認定医
- Valve委員 SHD委員
- 日本経カテーテル心臓弁治療学会(JTVT) TAVR実施医・指導医
- 経皮的僧帽弁接合不全修復システム認定術者
- 経皮的心房中隔欠損閉鎖術認定術者
- 左心耳閉鎖術(Watchman)トレーニング受講終了
- Structure Club Japan 理事
- 日本経カテーテル心臓弁治療学会 理事 指導医
- PCR Tokyo Valves program committee
- 日本心血管脳卒中学会 学術評議員
- 日本集中治療医学会
循環器内科 副部長 福永真人
Profile
- 日本内科学会 認定医 専門医
- 日本循環器学会 専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- 日本不整脈心電学会 専門医
- 植え込み型除細動器・ペーシングによる心不全治療 登録医
- 経皮的リード抜去術者認定
- EHRA certified electrophysiology specialist (ECES)
- EHRA certified cardiac device specialist (ECDS)
- 日本感染症学会
地域の先生方向けのQ&A【左心耳閉鎖 (LAAC) 】
なぜ左心耳を閉鎖するのですか?
左房の端っこにある左心耳は盲端になっており、非弁膜症性心房細動患者さんでの血栓の9割以上は左心耳に生じるとされます。抗凝固療法が難しい方では左心耳を閉鎖することで血栓形成を予防し、抗凝固療法を安全に中止できるようになります。
どのような方法で行う治療ですか?
全身麻酔・透視・経食道心エコー図ガイド下に右大腿静脈からカテーテルを挿入して治療を行います。順調に進めば 30分前後で終了します。
抗凝固療法は中止できても、抗血小板療法は必要と聞きましたが?
原則としては抗凝固薬を中止して抗血小板剤は継続しますが、出血リスクに応じて柔軟に対応します。
抗凝固療法は治療後、すぐに中止できるのですか?
術後には一定期間の抗血栓療法を行う必要があります。レジュメ(種類と期間)に関しては、出血リスクと梗塞リスクを天秤にかけて個別化して対応しております。
術後の外来通院の頻度や検査内容について教えて下さい
術後は通常のリスクであれば、4ヶ月後に再診し造影剤を用いたCTでの評価を行います。腎機能によっては1泊2日の入院経食道心エコーを行うこともありますが、以後は年に1回程度の通院で大きな検査はありません。
脳梗塞を予防する治療なのですか?
脳梗塞の予防としての効果は抗凝固療法の継続と同等程度とされていますので、抗凝固療法で特に困っていない方は、抗凝固療法以上の脳梗塞予防効果はありません。但し、抗凝固療法をおこなっているにも関わらず、脳梗塞を繰り返す際には、有効なこともありますので、ご相談ください。
HAS-BLED スコア 3点以上の出血リスクが適応とききました。出血とはどの程度ですか?
日本循環器学会からの適正使用指針では、出血イベントとして入院での治療介入を要するもの、輸血を要する程度の貧血や脳出血などの医学的に重大な出血が大出血とされ、リスクスコアに関わらず適応となります。リスクスコアの出血傾向(HAS-BLEDスコアの”B”に当たる)では、大出血には該当しないものの、医学的に対応を要する(外来受診や血液検査を要する)ものが小出血とされます。貧血の存在も含みます。
点状出血のような皮下出血は、出血としてカウントしますか?
点状出血のみでは出血カウントには含みませんが、抗凝固療法による出血傾向のために外来受診をして処置を行う程度では上記の小出血に含みます。
血痰は出血としてカウントしますか?
血痰も受診や休薬をを要するレベルの出血であれば、小出血に含みます。
血尿は出血としてカウントしますか?
血尿も受診や休薬をを要するレベルの出血であれば、小出血に含みます。
脳出血の既往は程度に関わらず出血としてカウントてよいですか?
脳出血は既往であっても大出血に含まれますが、MRI検査の中で”微小出血(T2*強調画像)”と呼ばれるものや、脳梗塞に付随した出血性梗塞は出血イベントに含みません。
大きな出血の既往は、例えば20年前のものでもカウントしますか?
基準としては含みますが、例えば出血の原因が除去可能なもの(胃ポリープからの出血ですでに切除済み)か除去不可能なもの(大腸憩室出血)では医学的な重要度は異なります。実際には20年前の出血の単回のエピソードで最近困っていなければ、要相談となります。
LAAC は出血した方の治療、というイメージが強いのですが、実際に出血イベントは全くなくても、HAS-BLED 3点以上の「ハイリスク」の段階でも治療適応がある、という理解でよいのでしょうか?
将来的にはいつ出血性合併症を起こすかの予測は困難ではあるのですが、HAS-BLED 3点の患者さんの年間大出血発症リスクは 4%弱であり、10年での累積発症リスクなどを考慮すると、ハイリスクの方でも転ばぬ先の杖として適応があると考えます。
人工弁置換術のためにワーファリンを内服中です。適応になりますでしょうか?
人工弁置換術の中で”機械弁”では、血栓弁の予防目的にワーファリン使用が推奨されており、LAACの適応にはなりません。生体弁置換術の術後3ヶ月以降であれば適応の可能性がありますが、僧帽弁狭窄症を基礎疾患とした場合には”弁膜症性心房細動“となるため、現在僧帽弁狭窄がなくても左房の著明な拡大を認めるケースが多く、適応としないこともあるためご相談ください。
脳神経外科医です。心房細動で抗凝固療法中で、脳出血を起こした方は多くの場合は高血圧もお持ちです。こうした方はみな LAACの適応でしょうか?
脳出血既往の2次予防として高血圧のコントロールはもちろん大切です。但し、血圧コントロールを適切に行なったとしても微小出血などのハイリスクの方では再発率が高いのが現状です。最終的には患者様の年齢やADLとも相談となりますが、基本的にはLAACをお薦めいただけると考えております。
腎臓内科医です。心房細動で抗凝固療法中の65歳以上の方は、慢性腎臓病や透析および高血圧があれば HAS-BLED 3点となります。こういった方はたくさんおられますが、みな LAAC の適応になるえる、という理解でよいのでしょうか?また、特にどういった方を紹介すれば患者さんにとって利益があると言えるでしょうか?
CHADS2 スコアの”H”は高血圧で良いのですが、HAS-BLEDスコアの”H”はコントロール不良の高血圧症(収縮期血圧 160mmHg以上)です。慢性腎臓病(CKD)患者さんでは健常腎機能患者さんと比較し、脳梗塞リスクが高いことが知られております。但し、CKD stage4以降ではNOACは慎重投与、stage 5では禁忌となり、ワーファリンへの切り替えが必要となります。現状ガイドラインではワーファリンによる出血リスクが高いこと、虚血性脳梗塞のリスクを減らすというエビデンスに乏しいため、脳梗塞2次予防・人工弁置換術後などの症例に限られております。血液透析患者さんに対するLAACはエビデンスに乏しいですが、有効と考えており、積極的に行なっておりますので、是非ご相談ください。
整形外科医です。心房細動で抗凝固療法中の65歳以上の方で、膝や腰の痛みで NSAID を服用している方を大勢見ております。LAAC の適応ですか?また、痛み止めに湿布薬は含まれますか?
HAS-BLEDの”D”にNSAIDが含まれますが、定期内服が必要な病状であればカウントされます。一時的な内服であれば含みません。また、湿布などの外用薬は含まれません。
出血リスクの高い手術を予定しております。LAAC を行って頂き、抗凝固薬を中止できる環境にして頂きたいのですが、適応はありますか?
術前休薬のための左心耳閉鎖治療は、もともと左心耳閉鎖術の適応があること・その術式が比較的待機的に手術可能であることなどの条件があります。基本的には術後抗血栓療法がある程度の期間必要であり、術後45日程度経過を診る必要があるかと思います。過去に周術期の休薬で脳梗塞イベントを生じたなどの非常にハイリスクは症例では、検討されるかと思います。
WATCHMAN などの閉鎖デバイスは金属製と聞いています。腐食しませんか?
WATCHMANのフレームはナイチノールという金属を使用しており、これはその他の生体内に植え込む多くのデバイスに使用されているものです。安全性に関しては問題ないものと認識しております。
WATCHMAN などの閉鎖デバイスは将来的に入れ替えが必要ですか?
基本的には植え込み後に医学的に問題がない場合には摘出や入れ替えなどの処置は必要ではありません。1回の治療で生涯を通じた脳塞栓予防効果が期待されます。
WATCHMAN などの閉鎖デバイスは MRI は撮影可能ですか?
MRI撮影に関しての制限はありません。いつでも受けていただきます。